理事長挨拶

 小池和彦前理事長の後任として、日本臨床分子医学会の理事長を拝命いたしました。伊藤裕副理事長とともに、日本臨床分子医学会の発展のために活動していきたいと思っておりますので、何卒御協力の程、宜しくお願い申し上げます。
 沿革でも紹介されていますように臨床代謝学会の流れを汲む本学会は、臨床の場で想起されたquestionsについてbasic science で答えを求めていく、それも学際的なアプローチでみんなで議論、解決していこうという特別な理念に基づいて発展してきました。私自身、脂質代謝とくに脂質分子の多様性がもたらす生理、病態の研究を多臓器多疾患にわたって楽しませてもらっておりますが、本会の姿勢の薫陶を受けながら若い頃より参加、関与させていただきました。
 皆様におかれましても、多くの学会が専門分化し特定の臓器や分野の議論の場になりがちになる中、内科の原点に立ち返り分野を超え横断的な内容を世界に伍する一線級の基礎研究で発信する学会として、この臨床分子医学会のイメージ、特性、重要性を共有共感していただいていると思います。この歴史的な経緯や我々医学者の本質を踏まえ、このような核となる姿勢や思いについては、今後もぶれることなく貫くべきかと思っております。
 一方、以前には分子生物学の興隆を踏まえて学会名を臨床代謝学会から臨床分子医学会に新装したこともございました。手法や力点、方向性については時代に併せた対応も、学会の維持や発展には必要かと思います。昨今の医学では技術進歩により、単一の分子や経路を越え、複合的オミクス的な多様データを一細胞単位、オルガネラ単位、あるいは臓器間で、解析や統合、俯瞰が必要になっています。学際的視点からこの複雑さを理解するためデータサイエンスや可視化を含めた新しいモダリティ、システムを複合的にとりこむ事も重要です。本学会は代謝、がん、炎症が領域の主座になってきました。この流れから分野の重なりや連携がより進めば、この学会の存在意義がますます高まってくると思います。また逆説的な普遍性や医療展開の目線から、稀少疾患などニッチな戦略についても共創の場を広げてはどうかとも思っております。
 運営面について、学際的学会の宿命ともいえる集会や財政面の難しさは、例年会長を担われた先生方がご苦労されているとおりです。加えてCovid-19の影響で開催の方式や学会そのもののあり方にまで問題が投げかけられています。コロナ禍の着地点は、個人、組織、社会をかえていくと実感されて、われわれにもsustainabilityの視点で対応していく必要性があるかもしれませんが、本会の理念と本質は揺るがないと思います。若手のリクルートもよくいわれるところです。新しく面白いものをしっかりとりこんで楽しく研究の真髄を発信していけば、本臨床分子医学会が求める人材はそれぞれの分野からおのずと集まってくるのではないかと信じています。
 大きな変革のうねりを好機に転じ、この学会の歴史をより太く紡いでいけるよう努力いたします。みなさんと議論していきたいと思いますので、忌憚のないご提案ご協力よろしくお願い申し上げます。

筑波大学 内分泌代謝・糖尿病内科
島野 仁